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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第13章 魅惑の香【🦾主 ← 🫖 & 🌹 ✉*】


足早に廊下を通り、階段を降りようとした時。


どん、と誰かにぶつかり、足を踏み外しかけた。



「きゃっ……!」



「主様……!」

支えてくれたのはベリアンだった。

華奢なようで力強い腕が、彼女を包み込んでくる。



「泣いてるんすか……!?」
彼と一緒にいたアモンが声をあげる。



「しっ……アモンくん、声が大きいです」



「ボスキさんとなにか遭ったんですか」

その言葉に、びくりと肩が跳ねる。そのさまは肯定に等しくて。



ふわり、と己の上着を脱ぎ、彼女の肩にかけるベリアン。



「とにかく場所を変えましょう。ここじゃ皆が来ちゃうっす」
ふわりと抱き上げられ、咄嗟に彼の服をつかむ。



「そのまま掴まっててくださいね」
微笑いかけながらも、その内側では紅が燻っていた。


(主様を泣かせるなんて……。)



「ふたりとも……?」
ゆれる瞳のなかに、吐息を封じた自分のおもてが映る。



「何でもないっすよ」
そのまま彼女を運んだ。
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