第13章 魅惑の香【🦾主 ← 🫖 & 🌹 ✉*】
「………?」
みずからの向けられる視線に気づいた彼女が、そっと見返してきた。
曇りのない、澄んだ深い青の瞳に囚われる。
「主様、………これを」
わずかに躊躇ったのちに、彼女の髪に花を挿す。
その甘い芳香に、その唇が綻んだ。
「これは……?」
「マリーニュラって花っす。いい香りでしょ?」
みずからに向けられる瞳は優しく、温かい。その意味を図りかねたまま応える。
「えぇ、とても……。」
そっと花弁にふれ、その瞳が和んだ。
「良かったら……ほかの花もご覧になるっすか?」
軋む音を抑えつつ、問いかけると。
「……悪いが遠慮する」
ぐい、と彼女を引き寄せて、両者の距離を広げたのは。
「ボスキ……!」
名を呼ぶ声に、その両目がわずかに解けた。
「いくぞ、『主様』」
その手首をつかんで、強いて導いていく。
その仕草はあまりにも性急で、アモンが口を挟む猶予すら与えられなかった。
「ご、ごめんなさいアモン。また今度みせてっ」
引かれるままに歩き出す彼女が、肩ごしに告げる。
その瞳に「いえいえ、大丈夫っすよ」と微笑って手を振ると、室内へと消えるふたつの影。
「……………。」
誰もいなくなった中庭で、アモンは胸元を握りしめた。
軋む音は止むことはなく、寧ろ酷くなるばかりで。
「ヴァリス様……。」
ボスキさんなら安心できるっすよ。
オレみたいに弱くないし、何よりあの方を大切にしてくれる。
何度説き伏せても、日に日に願いは膨らむばかりだった。
「せめて気づいてほしいって願うことくらいは、許してくださいっす」
浮かべた苦い笑み。それは夜の闇にとけ込み、消えていった。