第13章 魅惑の香【🦾主 ← 🫖 & 🌹 ✉*】
月が綺麗な夜だった。
「眠れない……。」
寝返りを打つけれど、瞼が重くなる気配はなくて。
「すぅ、………すぅ」
隣りではボスキが穏やかな寝息を立てている。その安らかなおもてに、笑みを描く唇。
(……起こしたら悪いよね)
起き上がると、長靴に足を収める。
「夜風に当たりたいな………、」
◆◇◆◇◆◇◆◇
向かった先は中庭だった。
降り立つと、風が花の匂いを運んでくる。
薄い夜着一枚で出てきたことに後悔しながら、咲き誇る薔薇にふれた。
「……いい香り」
知らず唇が笑みをのせる。
「主様、目が覚めちゃったんすか?」
悪戯に微笑んで、こちらへとやって来る影(アモン)。
「うん……貴方も眠れないの?」
「いえいえ、オレは水やりしてたとこっす」
告げながら、さっとジョウロを掲げて見せる。
「こんな時間に?」
驚きに染まる瞳。その眼差しに目元を和ませた。
「ある人に、花をプレゼントしたいんすよ」
何も知らない彼女は、無邪気な様子で微笑う。
「そうなのね……ここの花はどれも素敵だもの、
きっとそのひとも喜んでくれるよ」
彼女は何処までも鈍い。
みずからに向けられる感情に気づきもせず、ただ誰にでも等しく接するのだ。
それでいて、他者を慮り、痛みを分かつ優しさを持ち合わせていて。
そんな彼女だからこそ、誰よりも愛しい存在になって。