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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第12章 降りし日は、貴女と。【All Characters 別邸✉】


何とか宿を見つけた三人は、急いで室内へと滑り込んだ。



「ふーーー、………近くに空いてる宿があってよかったな」

ぽた、ぽた、と髪から身体から雫を伝わせながらハナマルが呟く。

大判の手ぬぐいを渡すと、暖炉の前に座り込んで薪をくべたユーハンも頷く。



「えぇ。………主様、いま火をつけますのでお待ちを」

懐から火打石を取り出して、かち、かち、と打ち付ける。



「うん、………くしゅ、」

ふる、ふる、と少しだけ濡れた髪を震わせていると、彼女にも手ぬぐいを渡してきた。



「宜しければこちらを。………御髪が濡れたままだと、お風邪を召してしまいます」



「え? でも………、」

そう言うユーハンのほうが濡れている。

肩口が雨で湿っていて、魔導服の布地が少しだけ肌に貼り付いている。



それに気づいた彼女が受取りを躊躇していると、その薄い唇に優しい笑みを描いた。



「私のことはお気になさらず。………それに、」

暖炉に視線を向ける。パチ、パチ、と鳴る炎に、何かを見出していた。



「こうしていると、私の幼い頃を思い出すのです」

その瞳は懐かしさに煌めき、穏やかで優しいひかりを纏っている。

もう焼けてなくなった故郷のことを思い出しているのだと悟り、その指にみずからのそれを重ねた。



「!」

みひらく瞳の先に優しい瞳。彼女は唇をひらいた。



「亡くなったユーハンの家族のぶんまで、私が傍にいるよ」

だから、もっと私を頼ってね、と告げる。

そのさまに心が揺さぶられた彼が重ねあわせた指を絡めてきた。
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