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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第11章 慈しみの雨【🌹 → 主 ← ✝️ ✉】


「(ねぇ……主様、)」

ややあって彼が唇をひらく。



「(あなたは、どうしてそんなに優しいんすか)」

かすかな問いかけに、彼女が身じろぐ気配がした。

少しだけ抱擁を解くと、心配そうにゆらめく瞳が見上げてくる。



「アモン……私ね………。」

見上げる目元を覆い隠す。

指先の狭間からみえたのは、哀しげに笑うそのおもてだった。



「すみませんっす………もう少しだけ、このままで」

密かな声が耳をかすめる。その言葉につま先立ちになったヴァリスは。



「!」
その頬に、唇を触れ合わせた。



「っ………おばあちゃんのおまじないなの。キスは、心を解くって」

恥ずかしそうに逸らした目元が、ほんのりと熱を宿している。



「(あぁ、もう……!)」

たまらなく胸が震えて、離れようとした彼女を抱きしめる。

くすくすと楽しそうな笑みの声に、その瞳がわずかな棘を宿した。



「わ、笑わないで」

拗ねたようにつぶやく彼女に、ますます笑みが彩る。



「ありがとうございますっす……主様。っ………ふふ、」

心からの言葉。

けれど途中でまた笑みが零れ、そのさまに怒った彼女がぽかぽかと身体を叩いてくる。



「もう……!」
けれどその声音は、何処か安堵の響きもあった。



「(たとえ、あなたの未来に、オレがいないのだとしても)」

何も変わらず、あなたを想いつづけますから。



心で誓いを立てる。背後の見知った気配に見せつけるように。



「(うかうわかしていると……オレが先に伝えるっすからね)」

声なき声でそう告げる。

温もりを教えてくれた、彼女を抱きしめながら。
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