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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第11章 慈しみの雨【🌹 → 主 ← ✝️ ✉】


エスポワールの外れ付近にて。

しばらく駆けていったのち、漸くアモンは足を止めた。



「「はぁ、はぁ………っ」」

互いに胸を押えて、急く心臓をなだめる。



「アモン……いきなり走ってどうしたの?」

サイドアップに結い編んだ青灰色が、首筋に貼り付いている。

知らず惹き付けられそうで、強いて視線を解いた。



「……っこっち見て!」

彼女の手が己の頬にふれる。

その瞳は少しだけ、本当に少しだけ、棘が宿っていた。



「主様……。」

その手首をつかんで、引き寄せる。



「っ……アモンッ?」

腕のなかで、戸惑いと羞恥に上ずった声がする。

見上げようとした目元を隠すように、一層強く包み込んだ。



(なにかに、怯えているの……?)

ゆっくりと手を動かして、その背に腕をかけると、吐息を嚥下する音をとらえた。



「大丈夫、………大丈夫だよ」

くり返しつぶやきながら、細い腕に力が篭る。

すがるように抱きしめると、華奢なその身が隙間なく寄り添った。



(何も、聴かないでいてくれるんすね)

突然こんな処に連れ出されて、なにが遭ったのかと気にならない筈がないのに、

それでも開かぬ唇に張りつめていた心が弛んだ。
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