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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第11章 慈しみの雨【🌹 → 主 ← ✝️ ✉】


「お手をどうぞっす……主様」

アモンの手を借りて、馬車を降りる。

コツ……と密やかな靴の音を立てて降り立つと、降り注ぐ陽光がその横顔を柔らかく照らした。



「ありがとう」

紅をのせた唇を綻ばせると、彼は瞳をさ迷わせた。

その意味を図りかねて、とまどった瞳で見上げられる。



「? アモン……?」

心まで見透かせそうに、穢れなき深青の瞳。

そんな筈はないのに、

強く打ち鳴らす心音までも悟られそうな気がして、益々心がざらついた。



「アモン……? 本当に大丈夫……?」

とまどいの色を濃くした瞳が、まっすぐに彼を映す。

そんなふたりの間を取り持つように、ハウレスが彼女に微笑みかけた。



「主様、本日はどちらへ?」



「果物を3種類……それと薄力粉かな」

ぺら、とドレスの隠しポケットからメモを取り出す。

その瞳は優しい煌めきを宿していて、今度は染みが広がった。



(あぁ………そうっすよ)
否応なしに侵蝕する感情は、そう——。



(っ……オレは、)
はっとして、気づかれぬようにそっと握りしめた拳のなかで爪を立てる。



(決めた筈でしょ。どんなあなたでも、そのすべてを慕うって)

膨らんでいく想いと願望(ねがい)。

蓋をして、抑えつけて、悟られないようにする日々は、酷く苦しいけれど。



(でも……それでもオレは、)
ただ、あなたの側にいたくて。その笑顔を、ただみつめていたくて。



(愛してるっすよ……主様。たとえあなたが想っているのが、オレじゃないとしても)

想いを封じ込め、彼女をみつめる。



「? なあに?」

すると、視線に気づいた彼女が不思議そうに見返してきた。

首を傾げた途端、さら……と艶やかな髪が流れる。



「なんでもないっすよ。それより………、」

彼女の手を取り、悪戯に口角をつり上げる。



「(オレと来てくださいっす……ヴァリス様)」

唇の動きだけでそう告げると、駆け出した。



「アモン……! 何処へいくんだ」



「すぐに戻るっすから。

ハウレスさんは買い出しお願いしますっす……!」



「おい……!」
背に放たれた声を無として、靴の音を響かせた。
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