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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第10章 魔女たちの仮面☩マスケラ☩【🦾 → 主 ← 🌹】


四方八方から彼女へと向けられる、好奇の視線。

蝶モチーフの仮面の下で、落ち着きなく瞳がさ迷う。



身の置き場を図りかねて、身体を小さくしていた彼女の手を、アモンが包んだ。



「!」



「(大丈夫っすよ、主様。ここで何が起きても、オレ達が守りますから)」

唇の動きだけで、そう告げる彼。



やがて、ヒールの高い靴が、床を打ち鳴らす音が響く。



「皆様、ようこそおいでくださいました。

心ばかりの御持て成ししかできませんが、どうぞ心ゆくまでお楽しみください」

現れたその影は、黒曜のドレスを身に纏った、とても美しいひとだった。

結い編んだ白銀の髪を彩る、薔薇の髪飾りも印象的で。



(だけど、どうしてなんだろう)

美しい弧を描いた唇は、どこか冷たいものを滲ませているように視えた。



紫玉の瞳が招待客を見渡す。

その瞳がヴァリスをとらえた時、さっと動揺が浮かび上がる。

けれどそれは一瞬のことで、すぐにその色を消し去った。



「さぁ、今宵も始めましょう………『その香の蜜を』」

その言葉を合図に、硝子の小瓶を並べたワゴンが運ばれてくる。

噎せ返るような甘い香りに誘われるごとく、招待客たちが次々と立ち上がった。



「!?」

やや遅れて立ち上がり、そして当惑する。

視線の先ではそれを飲み干した貴婦人たちが、ドレスを脱ぎ捨てて女領主の傍らに侍りはじめたのだ。



「ふふ……いい子ね。今宵も楽しみましょう」

暗い笑みを湛えながら、その手が素肌を撫で上げる。

唖然とする彼女を他所に、女性従者がその背後に近づいた。



「主様!!」

すかさずボスキが押さえつける。

彼女の前に立ち塞がり、庇うように片腕を広げたのはアモンだった。



「あらあら……。

やはり紛れ込んでいたのね……ねぇ? 可愛らしい鼠さん?」

その言葉に短剣を突きつけるボスキ。

瞳のひかりを消し去り、その喉に切っ先を向けた。



「……撤回しろ」

地を這うような一声が場を震わせる。

従者たちへの見せしめのように、さらに強く宛がった。
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