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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第8章 気高き華【🦾主 ← 🫖 & 🌹】


向かった先は診療所だった。

片手でノブを回すと、奥にあった処置台へと彼女を下ろす。



「う……。」

瞳を閉ざしたまま、その唇が苦しげに歪む。

額にかかった髪を払うと、彼らへと視線を投げかけた。



「あんた達、この薬草を出してくれ。………私は傷の具合を診ているから」

走り書いたメモを渡され、棚から瓶を取り出す。

吸い葛にヨモギ、オトギリソウ………。



瓶を受けとった彼は、傍らのすり鉢を手にとった。



「幸い、急所は外れている。傷を縫製すれば、いずれ目を覚ますだろう」



「リュシカ、彼らを別の部屋につれて行ってくれ」



「はい、父さん。………ほら、いくわよ」
ぐいぐいと背を押し、退室を促す。



(……ヴァリス、)

導かれるままに歩きながら、彼女をみつめる。鎖のような自責の思考を抱えたまま。



◆◇◆◇◆◇◆◇



通された部屋で、手を組み合わせるベリアン。



「主様……どうか、」
祈りを捧げていると、響いた声は。



「きっと大丈夫っすよ。主様を信じましょ?」
明るい声が、室内に漂う空気を覆い隠す。



「……そうだな」
応えたものの、ボスキの胸のなかは混沌としていた。



(ヴァリス……。)



「もう……! 揃いもそろって暗い顔してるわよ」

カップを配る村娘。

温かな紅茶で満たされ、その匂いに張り詰めていた空気がわずかに解ける。
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