第8章 気高き華【🦾主 ← 🫖 & 🌹】
「処置は……無事終わったよ」
厳かな足音とともに、街医者が姿をみせる。
「! ヴァリスは、」
「あぁ。………彼女なら、」
さっと横へと退くと。
「ヴァリス……!」
知らず駆け寄り、抱きしめた。
ぎゅ、と力強く包み込むと、苦笑交じりの声をとらえる。
「ボスキ……痛いよ、」
「っすまねえな。つい嬉しくて、」
腕の力を解くと、そっと背にかけられる華奢な指。
「私は此処にいるの。………ずっと、貴方が時を忘れるくらいに」
それからふたりを見つめた。
「ふたりも……心配かけてごめんなさい」
「いえ……貴女がご無事で、本当に良かったです」
柔らかな微笑に、アモンも呟く。
「もう、あんな無茶しないでくださいっす」
その瞳に宿る、わずかな焔。
その瞳に気づいたボスキの眼が、棘を宿した。
その視線に気づかぬ振りをしたまま、手を伸ばす。さらりとした髪を撫でて、微笑んだ。
「うん。当に……ごめんなさい」
髪から桜桃と桜の混ざりあった、甘い香りがする。
彼女自身が自然に纏う、清らかな芳香だった。
「おい……いつまで触れてる」
怒ったような声とともに、彼女を抱きしめる。厳しい視線に、からかうように微笑んだ。
「わかってるっすよ。………ベリアンさん」
「えぇ」
部屋を出ていく一同に、大きな瞳が揺れた。
「? ボスキ……?」
その唇から己の名が紡がれるだけで、この上なく幸せなのだ。
………けれど、いまは。
「……もう暫く、あんたを独占させてくれ」
とく、とく……と響く生者の証。わずかに震える身体を抱きしめた。
互いの存在を、確かめあいながら。