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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第8章 気高き華【🦾主 ← 🫖 & 🌹】


降り立った街は混乱を極めていた。

あちこちで、悲鳴とともに逃げ惑う姿をとらえる。



『死になさい。命のために』

呪いの如くこだまする、天使たちの声。

声と声が重なり、水面に幾重にも輪が重なるように。



「主様、力の解放を……!」



「っうん……!」



(いけない。集中しなきゃ……!)
震える唇を叱咤して、呪文をのせる。



「『来たれ、闇の盟友よ。我は汝を召喚する。

ここに悪魔との契約により、悪魔執事たちの力を解放せよ』」



「ありがとうございます、主様」
武器を手にしたその眼が、冷たく厳しいものとなる。


『死になさい。命のために』

鈍いひかりを放つ天使たちを、次々と切りつけていく。

その一太刀をかわし、時には受けとめて。



「遅いんだよ……!」

背後へと回り込んだボスキが、その胸を貫いた。

上がる血飛沫が、たなびく紺碧を一層鮮烈に魅せる。



「ボスキさん、後ろっす……!」

瞬時にバク転したアモンが、その背後に狙っていた天使を倒す。

手にした鞭の薔薇が、螺旋の如く絡まる棘が、その血を吸収して、より紅く咲き誇った。



しゅるりと撓る鞭が、天使たちの肌を舐めていく。

滴る血を求めるように。



「悪ぃな」
サッと一振りして、血を払う。対峙する横顔は、いつになく厳しくて。



(……ヴァリス、)

ほんの一瞬、互いの視線が絡まる。

胸の前で手を組み合わせ、祈るようにこちらを見つめていた。
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