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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第8章 気高き華【🦾主 ← 🫖 & 🌹】


「おふたりとも、そろそろご準備なさらないと、」

そっと告げられた声に、彼女の瞳がとまどいを映す。



「ボスキ、準備って……?」

その瞳に「ええと、」と言葉を絡ませた俺の横で、アモンがすんなりと呟いた。



「エスポワールの街で天使が出現したんすよ」



「え……!? じゃあ……今すぐ出発しなきゃ、じゃない?」

ここ、デビルズパレスからその街へ向かうにはそれなりの距離がある。

まだ見ぬ負傷者を慮り、その瞳が悲しげにゆらめいた。



「えぇ。ですから、外に馬車を待たせてあります」



「って、ベリアンさん! あんたも行くつもりなのか?」



「? えぇ」



「ベリアンさん、それは………、」
諭そうとした俺の唇に指先をあてる。



「もう……! 今は言い争ってる場合じゃないでしょう」

彼女の叱咤に、それぞれの瞳がわずかに和らぐ。



「……いこう」
四人をのせた馬車は、大急ぎで夕陽の街を駆け抜けていく。



ヴァリスはかたかたと揺れる車内に身をゆだね、胸のなかで何度も祈りを捧げていた。

そうしていても、波うつ心を鎮めることはできなかった。
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