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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第6章 仮面の下で【🫖 ⇋ 主 ← 🦋‪ & 🍷 ✉】


大広間には、たくさんの人々がいた。



やがて、彼女が姿をみせたことに気づいた青年貴族が、その瞳に冷たさを宿す。



それに気づいた貴族たちが次々とふり返り、そして大広間は一瞬にして楽しげな声をかき消した。



コツ、コツ……と踵の高い靴を踏みしめ、ルカスの手に頼りながら階段を降りていく。



「……あの方って、」



「あぁ、ヴァリス殿だ……悪魔執事どもの主人にあたる」

さざめくような声で、彼らが口々に囁きあう。



「皆様……ようこそいらっしゃいました。

ささやかな御もて成ししかできませんが、最後までどうぞお楽しみください」

そんな彼らをも圧倒したのが、彼女自身の言葉。



どんな名家の令嬢にも引けを取らない優雅さで、彼女に向けられる不満の声をねじ伏せた。



やがて流れてきた音楽に、彼女の唇が笑みを描く。



次々とワルツを踊る彼らに、彼女の瞳がほっとしたように解けた。



「……ヴァリス殿、」
優しい声にふり向くと。



「貴方は………、」

柔らかな笑みを浮かべる青年貴族がそこにいた。

銀色の眼窩が、笑みを湛えると同時にすこしばかり和んでいる。



そのひとが今回探るターゲットだったので、彼女はすばやく目を伏せることで動揺を静めた。



「少し……来てくださいますか」

その問いかけに、仮面の奥の瞳を眇める。



「本当に少しだけですから、」

その微笑みに、邪な何かを感じ取ったのは、彼女の気のせいなのだろうか。



しばし互いの瞳が見交わされ………。
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