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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第4章 今宵は貴方と【✝️ ⇋ 主 ← 🦾 & 🌹 ✉】


会場を出て、彼の背を追いかける。



「……お待ちになって」

中庭の先に消えた背を尾ける。



「あれ……? さっきの方は、」

見失った彼女は瞳を巡らせる。



「私をお探しかな、悪魔執事の主様」

背後から響いた声に背筋が凍る。

コツ、コツ……と近づいてくる足音はゆったりとしていて、

さながら獲物を追いつめた獣のようだった。



「ほう……。見た目は上玉、と言ったところだね」

舐めるような視線にぞわりと肌が粟立つ。



「君のようなお若いお嬢さんが、彼らの主人だったとは………ねえ?」

顎をとらわれ、否応なく視線が交わる。



「多方、グロバナー家(君らの雇い主)の差し金だろう?

天使たちを駆逐できない、愚か者の集まりがここに来るなんてね」

その言葉に唇をひらく。



「私のことはどう思っていただいても構いません。でも皆のことを悪く言わないでください」

その言葉に、愉快そうに瞳が揺れる。



「おやおや。一丁前に彼らを庇うくらいの気概はあるのかい?

君たちのような存在でも、仲間を思う心は持ち合わせているようだね」

酷い言葉に唇を噛みしめる。



その時だった。



バシャ。水が散る音が響く。



「っ! きさ、ま……!」



「ハウ、レス……?」
そこにいたのは彼だった。紅茶を浴びせ、冷たい眼で彼を睨めつけている。



「すまない。あまりにも……腹が立ったので」

守るように片腕を広げ、青年貴族を見据えている。



「………! この私になんという無礼を……!」



「おっと。動くんじゃねえよ」

ボスキが彼の背後に立ち、その喉元に短剣を突きつけている。



「さっきのお言葉……取り消してください」

フェネスの声に、ますます棘を宿す瞳。



「ふん………誰が、」



「言わなきゃこうっすよ」

シュ、と彼の顔すれすれの位置に突き刺さるナイフ。



「っ……大変失礼した」

渋々と言った様子で詫びた。そのまま逃げるようにその場を後にしていく。
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