第27章 今宵はふたりで【過去作派生中編 🤍→主←🐾 ♟️】
その指をやんわりと払いながら唇をひらく。
「心配など不要だ。お前は自分のことだけ案じていればよい」
けれどその瞳の光を仄かに和らげれば、ヴァリスの双眸がほっとしたように解けた。
「何を笑っている」
少しだけその瞳を冷えさせど、彼女は微笑むだけで、その唇が理由を紡ぐことはなかった。
「ううん、何でもな———きゃあっ!」
ガタン!と馬車が大きく揺れ、ヴァリスが前のめりに倒れそうになる。
「危ない!」
シロが指を伸ばし彼女に触れるより先に、
ベレンが素早く彼女の手首を掴み、車内の揺れから庇うように抱き寄せる。
「申し訳ありません、主様! 木の根に乗り上げたようです」
御者台からルカスの声がする。
「主様なら大丈夫だよ」
ヴァリスの手首を掴んだまま、ベレンが口にする。
「ベレン、ありがとう」
そう呟き身を離そうとするヴァリスのその身を、一層強く引き寄せる。
ぐっと華奢な身体をより密着させ、
彼女をその腕のなかへと閉じ込めたままのベレンを戸惑ったように見上げている。
「ベレン………ッ?」
その名を呼ぶ声に、その瞳を覆っていた惑いの影が消え去る。
「何でもないよ」
急いた所作で彼女の手首から指を解き、曲がってしまった首飾りを直した時。
馬車の走る速度が、段々と緩やかになっていく。
「大きなお屋敷………。」
馬車の窓から近づいてくる館の姿を確認し、膝の上に置いていた仮面を持つと、
そっとその手のなかの其れを抜き取られる。
「貸して。俺が付けてあげる」
そう言ってベレンが、自分に背を向けて座るように促す。
後頭部に温かな指の温度を感じたのだろう、
白い頬にうっすらと血が昇ったさまを見留めた刹那、カタン、と馬車が止まる。
「いこうか、主様」
馬車の扉をあけ、彼女の先に降り立ったベレンがその手を差し伸べる。
「うん」
その手にみずからのそれを重ね、降り立った。