第26章 今宵はふたりで【過去作派生中編 🤍→主←🐾 ♟️】
「これしきの事で我が疲労を感じる訳がなかろう。
お前こそ先刻から落ち着かぬ様子だが何かあったのか?」
「ううん、大丈夫——きゃっ!」
くんっとドレスの裾を踏みかけたヴァリスが足をもつれさせる。
「危ない!」
咄嗟に彼女の腕をつかんで支えると、ぐっと近づいた彼女自身の甘い芳香。
彼女の元いた世界にも存在していたという、清らかな桜と、
瑞々しい桜桃を混ざりあわせたような甘く柔らかな芳香。
その惑わすような芳香を感じながら、シロはヴァリスのおもてをのぞき込んだ。
「シロ……?」
大きな紺碧色の瞳が戸惑いを映す。
最初こそ同胞たちの弔いをするために悪魔執事にと志願したシロだが、
彼女を知りその内面の脆さと芯の強さに触れる度に、別の思考が自分を突き動かしている。
(……ヴァリス)
じっとその瞳をのぞき込んでいると、気恥しくなったのかその目元に朱を散らし瞳を解く。
(……我も焼きが回ったものだ)
するりと取り合っていた指を解くと、シロはその唇をひらく。