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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第26章 今宵はふたりで【過去作派生中編 ‎🤍→主←🐾 ♟️】


再び柔らかくも優しいピアノの旋律が響く。



「はい、スロー、クイック、………そこでターン………、」

瞳を結んだまま踊るふたりをそっと見つめるふたつの眼。



「………?」

何処からか視線を感じた彼女が瞳を巡らせど、もうその瞳は見留められなかった。



「ヴァリス?」

シロの声に咄嗟に笑みを浮かべる。



「ううん、何でもない」

そう言って再びシロと視線を結ぶ。



(ベレン……。)

ちらと僅かにひらいた扉の狭間から、ふたりを見つめるエメラルドの双眸を一瞥する。

その瞳は彼女だけを追っていて、シロはその眼を強く睨み付けた。



(貴様は何を恐れている)

問うように睨めど、返ってくるのは柔らかな意志を宿す視線だけ。



『主様はお前に惹かれているんだ。俺だって主様を愛しているけど、

両片思いのふたりの間に割り込んでいけるほど、俺は意地悪じゃないよ』

かつてベレンが口にした言葉を反芻する。




それでもその眼は優雅な所作で舞う彼女だけに視線を注いでいて、

シロの胸の内を混沌とした歯痒い思いが靄のように満たす。




(貴様がとんだ腑抜けだったとはな)

シロのターコイズの双眸か急激に色褪せ、それに気づいたヴァリスが足を止めた。



「シロ?」

不思議そうに見上げてくるその瞳を見下ろす。

伸ばした指が目元に触れ、瑞々しい唇を僅かにひらいた。




「疲れたの? さっきからドアのほうばかり見てるけど………。」

そう言って労るように眦を撫でる。その指をつかんで僅かに眼を眇めた。
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