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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第24章 八百比丘尼の花籠【☔️主 ← 🌟 & 🗝、✉️】


「はぁ、はぁ………っ」

走るよう導かれた先は、美しい川のほとりだった。

水鏡のように二人の姿を映し出すほど清らな水が、さらさらと流れている。



胸に指をあて、急く心臓をなだめていると、彼は唇をひらいた。



「申し訳ございません、主様。大丈夫ですか?」

繋いでいた指がそっと解かれる。

私は指を伸ばして、その頬をむにいいぃ、と軽く引っ張った。



「主様!?」



「もう……。二人だけの時は名前で呼んでって、いつも言ってるでしょう?」

そう言って少しだけ睨むと、彼は胸に手をあてた。



「はい、ヴァリス様」

そう言って手を差し伸べるその掌に、みずからの指を重ねる。



「ここは?」



「じきに分かりますよ」

そう言って艶やかに目を眇めて微笑んで見せる。



その直後。



「わあ………っ!」

思わず感嘆が零れた。

柔らかに瞬く無数の蛍たちが、二人の周囲を飛びはじめたからだ。



「綺麗………。」



「ここはフガヤマでは著名な蛍の群生地だそうですよ」

そう言って微笑むおもてが、優しいひかりのなかでより柔らかく解ける。



「気に入っていただけましたか?」

「勿論!」と微笑って見せる。

夜の黒曜のなかでも、互いの顔がはっきりと見えるほど、たくさんの蛍が飛んでいた。
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