第24章 八百比丘尼の花籠【☔️主 ← 🌟 & 🗝、✉️】
「ふふ……私は後でナックさんから叱られてしまいますね」
柔らかく微笑みながら口にする。その言葉に、私は首を振った。
「大丈夫よ、その時は私も一緒に叱られるから」
「寧ろ………、」と唇をひらく。そして彼を見上げて再度声を紡いだ。
「いつもは皆の眼を気にして、私に近づいてこない貴方と一緒にいられて嬉しい」
この言葉に、「私もです」と幸せをかみしめるように微笑む。
川に落ちぬよう重ね合った指がそっと絡められる。
そして再度川のほうへと瞳を巡らせた。
「本当に……素敵なところね」
蛍をみつめる瞳が、その仄かなひかりを映し込み輝く。
そのさまを柔らかな眼差しでみつめながら、薄い唇が美しい弧を描いた。
「えぇ、ずっとこうして見ていたい気分です」
「主様〜、………主様ぁーーーー!」
刹那の雰囲気を壊すごとく、近づいてくる下駄の音。
「ラムリ……。呼んでるよ、早くいこ………きゃっ!」
伸びてきた指に導かれ、竹藪の影に身を隠す。
「シイィ……!」
声を上げかけた唇を覆われる。
抱き寄せられ密着した浴衣越しに、鍛えられた身体付きを感じ、否応なく頬が熱くなる。
こくこくと何度も頷くと、その指が外された。
「主様はおいででしたか?」
「ここにはいないみたい!
もう、………ユーちゃんてばずるいよ! 主様をひとり占めするなんて!」
「あちらも探しましょう!」
ふた組の下駄の音が遠ざかっていく。
完全に聞こえなくなった時、身を離そうとした私をより強く抱きしめる。
「ユーハン……?」
問うように見上げると、彼は微笑んだ。
「もう少しだけ、………貴女をひとり占めさせてください」
そう言って頬に触れる温かな掌。
その幸せそうな微笑に、私は強ばらせていた身体の力を抜け落とす。
瞬いては消えるそのひかりが、私達を隠すように煌めく。
寄り添う二人を優しく照らしていて、額をくっつけて微笑いあった。