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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第4章 今宵は貴方と【✝️ ⇋ 主 ← 🦾 & 🌹 ✉】


その翌日のふたりは、どこかぎこちなかった。



ハウレスが声をかけようとすると、怯えたような表情で逃げていってしまう。



(……お傍にいられないだけで、こんなにも寂しくなるなんて)

その原因は自分にあるとわかっているけれど、それでも。

ひとつ嘆息して、彼女の姿を探していると。



「………?」
中庭に、ヴァリスの姿を見止めた。



その隣りで、花冠を編んでいるのはアモン。



彼女をみつめる彼の眼差しは柔く、愛しさに溢れていて、

時に狡猾な顔をもつ彼とは随分と変わったようにみえた。



泣いている彼女を抱きしめて、その頭に花冠をのせると。

彼女はふわりと微笑んだ。見たこともない顔で。



綺麗な主様。



優しいアモン。



ふたりだけの世界がそこにあった。

誰も立ち入ることのできない、悲しいほど綺麗で張りつめた世界。



彼はそのなかに入っていくことができずに、そっとその場を後にした。

軋む胸は、幻だと説き伏せながら。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「もう行ったみたいっすよ、主様」

優しい手付きで背をさすりながら、アモンが囁いてくる。



「ありがとう、アモン。それと……ごめんなさい」

苦笑交じりではあるが、その表情は先刻に比べれば幾分か晴やかだった。

するりと解く手をつかむ。



「アモン……?」
その手を引き寄せ、涙の軌跡の残る目元に口付ける。



「っあ………。」
敏感な箇所にキスをされ、わずかに跳ねる肩。



「元気がでるおまじないっす」
ふへ。いつもの笑みを浮かべている彼。



「もう……! ずるい」
頬を膨らませる彼女の頬をそっとつつく。



「風が冷たくなってきたっすね。………お手をどうぞ、主様」

悪戯めいて片手を差し出す彼に、思わず唇が笑みを描いた。



「やっと微笑ってくれたっすね」
ほっとしたように彼が微笑う。



「ありがとう、アモン」
そっと、彼の手にみずからのそれを重ねた。
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