第4章 今宵は貴方と【✝️ ⇋ 主 ← 🦾 & 🌹 ✉】
「待って、………待ってよ、ハウレス!」
その声に、漸く歩みを止める彼。
「ねぇ……さっきのこと、怒らないで」
「………………。」
「っこっちを見て!」
その頬を包み、強いて視線を交わらせる。
「っ…………。」
途端、そのひかりに気圧された。温かみのない、憎しみと怒りと嫉妬が燻る瞳。
「主様……。」
すり、と唇をなぞられ、わずかに跳ねる肩。
とまどった瞳で見上げる眼差しが、かつてみた彼女のそれと重なった。
「……ハウレス」
わずかな、本当にわずかな棘を込めて名を呼ぶ右腕(フェネス)。
「主様は、俺がお部屋までお送りするよ」
やんやりとふたりを引き離し、彼女に手を差し伸べる。
「参りましょう、主様」
「う……うん」
みずからのそれを重ね、彼の横をすり抜けていく。
伸ばした手は、彼女にふれることなく。
「っ………。」
虚空をかすめた指先を静かに下ろす。
(嫉妬、か………。)
胸を満たす感情の名は、嫌みなくらいにぴったりで。
「……ヴァリス様」
呟かれた名は、悲しいほどに優しかった。