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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第4章 今宵は貴方と【✝️ ⇋ 主 ← 🦾 & 🌹 ✉】


向かった先は屋敷の外の森だった。ランタンを片手に、彼女の手を引いていく。



「どこへ連れていってくれるの?」
繋いだ手から伝う、彼女の怯えと温もり。



「それは着いてからのお楽しみだ」
彼は微笑って、森のなかを進むばかり。



やがて、ふたりはひらけた場所に来ていた。



「着いたぞ」



「わぁ………っ!」
思わず感嘆を上げた。



そこは、美しい湖のほとり。

きらきらと月の光を反射する水面の下で、魚たちが気持ち良さそうに泳いでいる。



「素敵な場所………。」
はぁ……とため息とともに呟いた。



「俺の気に入りの場所だ。

一人になりたい時や、考えを整理したい時に来るようにしている。

ここで静かで、とても美しいからな」



「教えてくれたのはどうして?」

からかうように煌めく瞳。

その眼差しをみつめ、唇がカーブを描くのが自分でもわかった。



「俺を選んでほしいから……て言ったらどうする?」

この返答は予測していなかったようで、大きな瞳が驚いたように瞠目する。



「主様、俺は———。」
伸ばした手をしたたかに払われる。



「ハウ、レス……?」

冷たく眼を眇める眼差しは、いつもの彼より冷静さを欠いていた。

彼女を守るように自分の背後へと引き寄せ、ボスキを睨めつける。



「主様を連れ出すとは感心しないな」

厳しい視線をせせら嗤う。


「ふん……尾けてでも来たのかよ。それこそ褒められたことでもないくせに」

そのまま睨みあうふたりの胸に手を当てる。



「もう……! 喧嘩しないで」



「ハウレス、私が頼んだことなんだよ。だからそんなに怒らないで」

そっと微笑いかけると、その瞳がわずかな影を宿す。


「ハウレス……?」
とまどったように揺れる瞳。



「ッハ………恋人でもないあんたが嫉妬とか救えねえだろ」

その瞬間、身体が動いていた。

気づいたときには彼を殴っていた。その一撃に、ボスキが唇を歪める。



「ッチ……ハウレス………!」



「主様、帰りましょう」
強引に彼女の手をつかみ、導くように引いていく。



「ハウレス……!?」
彼女の声に気づかぬ振りをしたまま。
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