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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第4章 今宵は貴方と【✝️ ⇋ 主 ← 🦾 & 🌹 ✉】


「どうぞ、主様」

キィ……とかすかな音ともに扉がひらく。



「ありがとう」
微笑んでなかに入ると、カーテンが閉められる。



「お着替えのお手伝いをいたします」



「うん、お願い」

背後に立った彼が、編み上げたリボンを解いていく。

あらわになっていく肌をぼんやりと眺めながら、その瞳がわずかに翳る。



「っ………。」
彼の言葉が、胸の辺りでしこりと化したまま、落ちていかない。



『こんな時間までのお付き合い、感謝いたします』



邪気のない言葉。あれは主である自分へのいたわりの言葉だ。

彼にできる最上の好意の示しであって、他意はない。



そうわかっていても、なんだか口惜しく、悲しかった。



彼は、あるじとその執事という一線を、決して越えない。

それは真面目で品行方正な彼ならば、仕方ないとも言えるけれど、それでも。



(でも……私はとっくに覚悟ができているのに)

ネグリジェに袖を通しながら、その瞳が潤んだ。



「主様……。」

リボンを結び終えた手が頬を包む。ちゅ、と瑞々しい音を立てて、額をかすめた。



「フルーレ……ッ」
なにかを紡ぎかけた唇に指先をあてる。



「お休みなさいませ、主様」

ふふ。微笑んで部屋を出ていく。



「っ………!!」

ぼふ、と寝台へと倒れ込む。

心臓が早鐘を打ち、否応なく頬に朱が集った。



そのまま瞳を閉じて、眠ろうとしても。

眼裏でちらつくのは、ふれた温もりと優しい笑顔。



「眠れる訳、ないよ……。」

そっと、自室を抜け出した。
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