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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第4章 今宵は貴方と【✝️ ⇋ 主 ← 🦾 & 🌹 ✉】


「はい。スロー、………クイック。そこでターン………。」

優しい旋律に合わせて、踊るふたり。

先刻までとは異なり、所作や表情、見交わす瞳でさえも、まるで本当の恋人のようで………。



(……私の『魔法』は効いたようですね)

ぱん、ぱん、と手を打ち鳴らしながら、その瞳がわずかに翳る。



(主様……。)

その華奢な身体からは窺いがたい、強く気高く、そして少々危ういほどにまっすぐな内面。

滲んだ感情の名は、これからも肯定することはできないけれど。



(それでも、私は——。)

余韻とともに消えゆく音色に合わせ、踊りきると。



「はい、ストップ! 今日はここまでにしましょう」

心からの拍手を贈りながら告げる。



「お二人とも、かなり様になってきていますよ」

その言葉に、ふわりと微笑みに形づくられる唇。



「良かった……! 皆……お疲れ様」
するりと取り合っていた手が解け、温もりが離れていく。



「っ………。」

終わったのだから当たり前のことなのに、なぜだかそれが寂しくて。

わずかに眼を眇め、その感情を散らした。



「主様こそ………こんな時間までの御付き合い、感謝いたします」

微笑んでそう告げると、彼女の瞳が悲しげにゆらめく。



(主様……?)
けれどそれは一瞬のことで、すぐに常の明るさを宿した。



「主様、お部屋までお送りいたします」

フルーレが告げると、「うん、お願い」と微笑んだ。



彼に向けられる笑顔を、消えていく背を、ずっと見つめていた。

滲む感情を持て余したまま。
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