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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第18章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅱ 【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】


「!」

ヴァリスは、はっと吐息を封じた。

薙ぎ払われ散り散りに漂っていた靄たちが、再び密集して今度は別のものを形づくる。



そして現れたのは黒曜の短剣だった。

無数の刃が、ボスキの背へと狙いを定め———。



「(ボスキ、後ろ……!)」

彼女はそう叫びたかったが、ひらいた唇からは何の音も発せられなかった。



「? 主様?」

ぱく、ぱく、と声なき言葉で伝えようとしても、彼は気づかない。




その間にも刃は彼の背へと飛んできて———。




「駄目……!」

気づけば彼を突き飛ばしていた。

標的を失った短剣たちが、その身を貫く刹那。




「散れ!」

その声とともに靄が消え去る。



バタ、………バタ、と忙しなく靴の音を響かせながら、客間へと足を踏み入れるいくつもの見知った影。



「アリエ殿!」

カレッセン公の後に入室してきたのはベリアンだった。

いつになく冷静さを欠いた瞳をして、彼女のほうへと駆け寄ってくる。




ぺたん、と力の抜け落ちその場にへたり込んだヴァリスに、手袋に包まれた指が差し伸べられる。
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