第19章 月嗤歌 ED Side A - I【🧸 → 主 ← 💮 ♟】
「あの女が選んだ反物には、幻色椿から抽出した香油を織り込んである」
「! ハナマルさん、………たしか幻色椿って、」
「あぁ、東の大地に伝わる催淫薬の主原料だな」
「でも、この人はなんでそんな事を⋯⋯、」
思わず零れたテディの声に、くすくすと嗤いながら最悪の毒を放つ。
「決ってるだろう? いつも澄ました顔をしているお前らの主様が、
みっともなく快楽に溺れるさまが見たかったんだ———」
ガアン! けたたましい音がして、ここにきて商人が初めて気圧される。
ハナマルが磔にされたレビの顔のすぐ横の壁面を蹴り上げたのだ。
「もういい。あんたには、ここで死んでもらう」
腰に提げた鞘から、錆びた刀を抜いた。
その眼は燃え滾るような怒りを宿し、コツ、コツ……とゆっくりとした足取りで商人に近づいていく。
「ハナマルさん!」
テディの声を無と看做し、その刃を振り上げた、その刹那だった。
「ハナマルくん、………そこまで」
拘束室の扉が開き、入ってきたのはルカスだった。
怒りと警戒心を滲ませた瞳をして、二人の間に割って入る。
「でも、こいつは………っ!」
「ここでキミが人殺しになったら、主様が一生苦しむ」
その言葉に、ゆっくりと刀を下ろし、鞘に収めていく。
それを見届けた後、彼は扉のほうへと目配せした。