第19章 月嗤歌 ED Side A - I【🧸 → 主 ← 💮 ♟】
ばたばたと忙しない足音を響かせながら入室してきたのは、グロバナー家の憲兵隊だった。
「では……彼をお願いしますね♪」
にっこりと微笑んだそのおもてに棘が宿る。
取り押さえられた商人は、怒りと屈辱に歪んだ眼で彼らを睨め付けた。
「覚えてろよ、悪魔執事どもが……!」
唾を飛ばしながら捨て台詞を吐くと連行されていく。
「……ハナマルくん」
そしてルカスは怒りを抑え込みながら立ち尽くしている彼の肩に指をかけた。
「ありがとな、ルカス先生。
さっきあんたが止めてくれなかったら、本当にあいつを斬ってたわ」
燻る怒りを呑み下すようにして告げる。
「いやいや、私は胸がすく心地がしたよ♪」
問うような眼差しに笑みを深める。そしてルカスは微笑んだまま口にした。
「ハナマルくんが彼に切りかかろうとしてくれなかったら、私が自分を抑えられなくなっていたからね」
でも、そうだね、と笑みを収める。
「今回の一件はフィンレイ様の耳にも入るだろう。
………ハナマルくん、一緒に来てくれないかな。いい気つけ薬を調合しよう」
「ああ、わかった。………テディちゃん」
それからテディのほうへと向き直る。
ぽん、ぽん、と頭に手を打ち付けられて、不満そうな声を上げた。
「ちょっ……ハナマルさん! 俺は子供じゃないですよ!」
「悪い悪い。テディちゃんも、ありがとな。
あんたは俺なんかより、よっぽど冷静だったから」
いつものこちらの意図の鎖をすり抜けるような笑みを浮かべて告げる。
そして部屋を出ていくふた組の足音に、ぎゅっと胸元を握りしめた。
「そんな……本当は俺だって、」
呟かれた言葉はゆらめく蝋燭の灯りに、融けて消えていった。