第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】
(……偽物だと見抜かれたのかな)
一瞬にして氷のように冷たく、その身に重くのしかかる心臓。
そのまま探りあうように結ぶ眼差しに、ルカスはやんわりと唇をひらいた。
「アリエ殿、カレッセン公。お顔が強張っておられますよ」
にっこりと微笑んで、ヴァリスの腕に指をかける。
彼と視線がかち合うと、『ここは私にお任せを』と声なき言葉で告げてきた。
「———とは言え、アリエ殿、貴女の言う通り、何事にも例外と言うものはありますね」
顔を見合せているヴァリスたち一行をみて、カレッセンはわずかにその瞳のひかりを和らげた。
「貴女の御生家で淑女としての評判は、この月の廃園にも届いております。
兄君であるフィンレイ殿とはまた違った———他者を惹き付けてやまない気質をお持ちのレディだとね。
そのような貴女だからこそ、フィンレイ殿は貴女に名代をお頼みになられたのでしょう」
彼はそこで一度声を止め、ヴァリスの瞳を見返した。
みずからの深青の瞳と 彼のすみれ色の瞳との視線が結ぶ。
「ゴブレット一杯分のディアズリリーの秘薬とは、随分ささやかな量だ。
その量ならば秘薬の複製は限りなく不可能に近しいですし、
貴女の弟君にのみ服用される他使い道はないと断言できるでしょう。
そのくらいの量ならば貴女にお譲りしても、わがカレッセン家に不利益が生じるとは考え難い。
………それに、貴女とともにこうしてグロバナー家に連なる方々が同行し、
親類である貴女に口添えされていることを考えると、
無下にお断りするのは気が引けるのも事実です」