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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】


「———長く生きることも悪いことではありませんね。

この寂しい城に、このように華々しい方々をお迎えする日が来ようとは思ってもみませんでした」

ワインのゴブレットを口に運び、カレッセン公は言った。



「この古城が「弔いの聖域」と定められたのは今から八十年前のことになりますが、

かつてここは『蜘蛛の城』と———そう呼ばれていたのですよ。


私も文献と先代の城主殿からお聴きしたのみの知識でしかありませんが、

この城に虜囚の王や王妃を迎え、

彼らの不運と悲しみを慰めるために夜毎饗宴を催していたとか」

ナイフでエスカルゴを切り分けながら、彼の言葉に耳を傾けるヴァリス。

彼はさらに続けた。



「そのような時代は遠のき、

天使たちの犠牲者の冥福を祈る聖域と定められ———その制定以降、

貴族の方々がこの城を訪ねられることは久しくなったのです。


その為 華やかな文化や空気に触れることが難しくなり、城主としては大変寂しく思っていたところです」

もっとも、とヴァリスをみつめて微笑む。



「蜘蛛の城と呼ばれし時代を知る人々は安堵したでしょうね……何せこの月の廃園へ送られた人々は、

二度と故郷の土を踏むことはありませんでしたから」



「血筋をたどれば、わたくしの先祖も一人や二人はここに来ているのでしょう……。

その節は貴方の先祖に世話になった筈でありましょうし、礼を言いますわ」



「はは、楽しいことを仰いますね。

私としてはこの平和な時代に貴女様を歓待することとなり、嬉しく思いますよ。

退廃した時代の酩酊者ではなく、このように親しい友人としてお迎えできたことを」

同感ですわ、とヴァリスがうなずく。



「わたくしの生家でも、貴殿は噂の的ですのよ。

廃園のあるじと定められた貴方の数奇な物語を………。」

はっとした様子でこちらを見る彼。ヴァリスはその唇に美しい弧を描いた。
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