第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】
「只の噂ですわ。………どうかお気になさらないで」
にっこりと笑んだその表情に、わずかな棘が宿る。
けれどそれは刹那のことで、すぐに先刻の柔さを戻した。
(……僕は、貴女を侮っていたようだ)
冷えた思考を抱え、再度眼前で微笑む少女をみつめ直す。
艶やかに、美しく流れる青灰色の髪。
清水のように温かく、それでいて知性の煌めきを閉じ込めたアウトナイトの双眸。
紅い血汐を透かした唇。女性らしさの滲むその身と佇まい。
(……『アリエ・グロバナー』殿………。)
胸のなかで反芻する。
グロバナー家当主の妹君の話は、この月の廃園にも届いていた。
兄である当主から溺愛され、周囲に傅かれながら成長した少女。
しかし亡き母君の影響か、………それとも元来の彼女自身の気質ゆえなのか。
聡明で、兄君思いで、穢れを知らぬ新雪のように純粋で心優しい箱入りの御令嬢。
(本当に、あの方の鏡映しのようだ)
………似すぎている。顔立ちや彩色は何一つ同等ではないのに、
纏う空気と佇まいが彼にあのひとを思い描かせた。