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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】


貴族でない私の眼からみても、

カレッセン公のお仕込みがよほどいいとわかる、とヴァリスは関心した。

あるいはエーファンの教育がいいのかもしれない。



「エーファン、奥方様はこのお席にはいらっしゃらないのかしら?」

食事をはじめながら、彼女は先刻から気になっていたことを尋ねた。



「挨拶をしたいと思うのだけど、公爵夫人の御姿をお見かけしていないから」



「奥様はいらっしゃいません、アリエ様」
エーファンは微笑んだ。



「公爵夫人は既に亡くなられました。
現在、主人のカレッセン公は独身でいらっしゃいます」



「まぁ、そうだったの。ごめんなさいね、わたくしったら」



「いいえ、どうぞお気になさらず。

最後の奥様が亡くなられたのはもう五年も前のことなので、

旦那様も気にしておりませんゆえ」

ヴァリスはきょとんとした。最後の奥様?



「皆様のお部屋に飾っている肖像画ですが、あれはご覧になりましたか」



「えぇ。百合の銀細工の首飾りをした、

とても綺麗な女性たちの描かれた絵でしょう」



「あれが亡くなられたご夫人がたでございます」



「え? 三人とも……?」



「はい。最初の奥様は旦那様が十九の時に結婚なさった方です。


お美しい方だったのですが、残念ながらお産がうまくいかず、

若くして亡くなられました。


二番目の奥様はその八年後に再婚された方ですが、熱病に罹って儚くなられました。


それからしばらく一人身で過ごされたのち、

三人目に迎えられた奥様とは十年連れ添われましたが、

このお方も五年前にやはりご病気で………。


皆様素晴らしい女性だったのですが、

ご病弱でいらっしゃいまして、長寿が叶いませんでした。


主人も私も大変残念に思っています」


まぁ、と言ったきりヴァリスには言葉もなかった。

三人もの妻に次々先立たれるなんて、と彼女は思わず同情してしまう。
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