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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第17章 月嗤歌【All Characters(別邸組)✉*♟】


「では……こちらの柄はいかがでしょう?」

そう言って、その内の一つの反物を広げて見せる。

淡い水青の地に、無数の蝶が

紺碧と白銀の糸で混ざりよう刺繍された、華やかな色合いの布地だった。



「とても素敵だわ」

その一言にレビの唇がわずかに歪む。

それはあまりに仄かな嘲笑で、彼女には気づかれていない。



「………っ」

思わず声を上げようとしたユーハンの瞳と、ちらとこちらを一瞥した商人の瞳が刹那かち合う。



そして彼は、なぜか瞳をゆらめかせた。

その眼にわずかな動揺を映し、ユーハンから視線を解く。



(なぜ、この男は……、)

思わずその横顔をみつめる。同時にみずからの記憶をひともいた。



(レビ、……呉服商人のレビ………。)

何処か既視感のある瞳に邪なにこにこ顔。

仕上がりの希望を告げるヴァリスを、仄かに憧憬の色を宿しみつめる互い違いの色彩の瞳。



「さて、………では採寸をいたしましょうか」

そう言って、彼女の傍らに控えていたユーハン達に目配せする。



「アリエ様、何か遭りましたらあれを」

その耳元で囁く。彼女は紅をのせた唇をひらいた。



「えぇ」

辞していく彼ら。その背を見送った後レビは唇をひらいた。
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