第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】
「亡くなられたご夫人たちの間に、お子さまはいらっしゃらないのですか?」
続いてルカスが口にする。
「残念ながらいらっしゃいません。
第一夫人と第二夫人がお産みになったお子さまは、生後間もなく亡くなりましたので」
「たしか弟君がいらっしゃるとか」
「はい。森を挟んだ領地内の東に城がありまして、
弟君はそちらに御家族とともに暮らしていらっしゃいます」
ということは、このままいくとその弟君が爵位と領地を受け継ぐこととなるのだろう。
それにしても、これだけ豪奢な城に
妻子もなく一人で暮らしているとなるとさぞ寂しいだろうな、とボスキは思考に載せた。
(この世に未練を遺して逝去した者たちを弔う、特殊な貴族家の当主……か。
三度の結婚で三度の死別を経ていて、………そういや、カレッセン公はいま幾つなんだ?)
「エーファン。
カレッセン公は現在おいつくなのか、失礼でなければお聞きしてもかまわないか?」
「勿論、かまいませんよ、ミスター」
ふいに背後から声がした。一同がふり向く。
「旦那様」
エーファンの言葉にびっくりする。
(いつの間にカレッセン公がいらしてたの?)
ヴァリスを覗いた他のみなが立ち上がる。
厚い帳に遮られた出入口は薄暗く、入ってきた彼らの顔ははっきりとは見えなかった。
最初にヴァリスの目に入ったのは侍女らしき二人の娘たちで。
まだ十代だろう、どちらも華奢な美少女である。
繊細なフロリアンレースとフリルをふんだんに用いた黒曜のドレスも、
凝った形に結い上げた黒髪も、
そして左右に並んだふたつの顔も、ふたつながらにして全く同じだった。