第17章 月嗤歌【All Characters(別邸組)✉*♟】
連れていかれたのは団欒室だった。
「アリエ様、こちらでお待ちください」
室内へと足を踏み入れたヴァリスにハウレスが告げる。
彼女は常より冷えた瞳で彼をみつめた。
「えぇ、………いいわ」
優雅な所作でカウチに腰を下ろす。
その傍らにユーハンが控え、二人から少し離れた窓辺近くにテディとハナマルが立った。
その横顔をみつめながら、ユーハンは自らの記憶をひもとく。
(こうしていると、貴女と初めてお会いした日を思い出しますね)
忘れたことなど一度もない。
四貴族家当主による同盟締結のためのあの会合。
かつてのあるじ———フブキの切り裂くような視線に晒されながらも、
堂々とした佇まいを崩さなかった彼女の勇気に。
したたかな少女だと思った。………その儚げな彩色にそぐわぬ、夏の陽炎のような為人だとも。
けれど、それは仮面だった。彼女が彼女である為の鎧だと気づいたのだ。
悪魔執事の主として生きていくには、あまりに繊細すぎる彼女の素顔。
その片鱗にふれた時、どうしようもなく魅せられた。
悲しげに微笑うその表情に胸の奥が軋んだ。
(思えば、………あの時から、)
その身に太陽の快活さと黄昏時のような陰りを秘める少女。
彼女が宿す光も闇も、その全てをともに抱けたら——。
(っ………私は、)
滲んだ染みは名を授けることすら許されぬ想い。すばやく瞬いてその思考を上塗る。