• テキストサイズ

訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】


「……遅れたって知らないんだから」

拗ねた調子でつぶやくと、「すまねえな」とその瞳が柔らかくなる。



「貴女が、あまりにも———」

頬にナックの手がふれて、益々頬が朱を帯びた。



「もう……! 揃いもそろって……!」

勢いよくそっぽを向けば、くすくすと微笑われて。そんな彼らを引き離したのは。



「皆さん……主様の仰る通りですよ、遅れる訳にはまいりません」

既に完璧に身なりを整えたベリアンが声をそろえる。

そっと肩にふれた手は、いつもより冷えていた。



「おっと、たしかにそうだね。———主様、からかって申し訳ありません」

頭を垂れるルカスに、ばつの悪そうに黙っていたボスキとナック。



「私に、三人の髪を直させて。それで許してあげる」

悪戯に笑んで見せれば虚を突かれたようで。

みひらく瞳に、微笑んだ自分の顔が映る。



「……あんたは優しすぎるんだよ」

そうつぶやいたボスキだったが、彼女の言葉にどこかほっとしているようでもあった。



鏡の前に座ったルカスの髪を、そろりと櫛(くしけず)っていく。

ゆるく波うつ髪はふわりとしていて、そして意外にも芯があった。



「主様に結っていただけるなんてね♪」

鏡ごしに微笑まれ、なんだか気恥しくなった彼女は手元に集中した。



痛みを与えないようそっと梳いて、耳の上辺りまで編み込み、

黒曜のリボンで結わえる。



それはあまり器用かつ綺麗に結われていて、彼の瞳が名残惜しげにゆらめくほどだった。
/ 168ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp