第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】
「……遅れたって知らないんだから」
拗ねた調子でつぶやくと、「すまねえな」とその瞳が柔らかくなる。
「貴女が、あまりにも———」
頬にナックの手がふれて、益々頬が朱を帯びた。
「もう……! 揃いもそろって……!」
勢いよくそっぽを向けば、くすくすと微笑われて。そんな彼らを引き離したのは。
「皆さん……主様の仰る通りですよ、遅れる訳にはまいりません」
既に完璧に身なりを整えたベリアンが声をそろえる。
そっと肩にふれた手は、いつもより冷えていた。
「おっと、たしかにそうだね。———主様、からかって申し訳ありません」
頭を垂れるルカスに、ばつの悪そうに黙っていたボスキとナック。
「私に、三人の髪を直させて。それで許してあげる」
悪戯に笑んで見せれば虚を突かれたようで。
みひらく瞳に、微笑んだ自分の顔が映る。
「……あんたは優しすぎるんだよ」
そうつぶやいたボスキだったが、彼女の言葉にどこかほっとしているようでもあった。
鏡の前に座ったルカスの髪を、そろりと櫛(くしけず)っていく。
ゆるく波うつ髪はふわりとしていて、そして意外にも芯があった。
「主様に結っていただけるなんてね♪」
鏡ごしに微笑まれ、なんだか気恥しくなった彼女は手元に集中した。
痛みを与えないようそっと梳いて、耳の上辺りまで編み込み、
黒曜のリボンで結わえる。
それはあまり器用かつ綺麗に結われていて、彼の瞳が名残惜しげにゆらめくほどだった。