第17章 砂糖菓子の鳥籠 Ⅰ【君という名の鳥籠 予告中編 ♟】
「それでは、エーファン、早速城内へ案内していただけるかしら?」
「かしこまりました」
「あぁ、その前にわたくしの友人を紹介しましょう。
こちらがルシウス・トンプシー殿、そちらは友人のナルス・シュタイン殿、
ベリアル・クライアン殿、そしてボスウェル・アリーナス殿ですわ」
偽名を告げながら微笑む。
「主とその悪魔執事」という立場は隠すようにと、
グロバナー家当主その人から指示をうけているからだ。
「どうぞ、………こちらへ」
優雅な所作で一礼すると、奥へと案内してくれる。
その背の背後を歩みながら、ふと、いくつもの視線が自分へと集まっていることに気づく。
瞳を巡らせかけて、辞めた。
(いけない。いまの私は「アリエ・グロバナー」でしょう?)
貴族らしい振る舞いをしなければ、私が「偽物」だとバレてしまう。
身体の前で重ねあわせた手のなかで指を曲げて、そっと、金の指輪にふれる。
大丈夫、きっとうまくいくよ。そっと祈ると、彼と足音を合わせる。
通されたのは、青と黒曜を基調とした、壮麗かつ華やかさの漂う一室だった。
客間だろうか。百合の銀細工の首飾りを身につけた夫人の肖像画が三枚、
暖炉の上壁に飾られている。
(すごく綺麗なひと………。)
衣装からしても絵のタッチからしても、近年中に描かれたものだと見受けられた。
「こちらのお部屋でお待ちください。
………まことに恐縮ながら、
主人のカレッセン公はまだ帰っていないようですので、
晩餐の際に正式に挨拶を申し上げることになるかと思います。
旅のお疲れもございましょうから、
それまでどうぞこのお部屋でゆっくりとお過ごしください」
説明も流暢ながら、ほとんど足音を立てないゆっくりとした歩き方も、
流れるようにお辞儀をして立ち去っていく姿も、家令として申し分ないものである。