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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第16章 月嗤歌【All Characters(別邸組)✉*♟】


「……………。」

ふいにその瞳が彼らの視線から解かれ、宙をみつめる。

何処か霞を纏った双眸に、ハナマルは手袋に包まれた指を伸ばした。


「!」

ぽん、ぽん、と結い上げた髪を崩さぬようにそっと手を打ち付ける。


見上げた視線の先に優しい瞳。柔らかく解いたその双眸は、ほのかに彼女の緊張を上塗った。



「大丈夫だって。

向こうさんだって、ここであんたをどうこうするつもりはないだろ」

頭を撫でていた指が徐々に下へと下りていき、散らされた後れ毛を絡める。

ほのかに薔薇の香りのする髪にふれていると、ユーハンがやんわりと二人を引き離した。



「ハナマルさん、………主様に近すぎです」

棘が宿った胸の内を隠すように少しだけ彼を睨めば、その瞳がからかうような光を宿す。



「へぇ……。」

飄々とした笑みを浮かべそのおもてをみつめてくる。


見透かすような眼に、ユーハンは内心の感情の乱れを呑み下しその視線を受け流した。
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