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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第16章 月嗤歌【All Characters(別邸組)✉*♟】


「ふ、ふたりとも……?」

何処か針のような鋭さを持った視線を結びあう二人に、ヴァリスが戸惑ったような声を上げる。



そんな二人の胸に手を置き、やんわりと割って入ったのはテディだった。



「おふたりとも、主様が戸惑っていますよ」

その言葉に互いの視線の棘が抜け落ちる。



ばつの悪そうに彼女をみつめるハナマルと、胸に手を置き一礼するユーハン。



「大変失礼いたしました、主様」

詫びる彼に「大丈夫」と笑って見せる。



「この頃のあなた達……どこか前と違っていたから安心したよ」

そう言って微笑うおもてに胸がさざめく。




(……先程の視線の意味に気づいておられないのですね)

胸のなかで乾いた風が吹いた。

それが歯痒さとほのかな恨めしさを伴ってユーハンの内を満たしはじめ、その瞳をみつめる。



「………?」

穏やかな眼をして見返すその双眸に、思わず指を伸ばしかけた時。



「アリエ様、商人が到着しました」

叩扉の後とらえたのは従者の声。



「えぇ、………今行くわ」

普段の彼女より少しだけ低めた声。



一瞬にして『アリエ・グロバナー』へと成り代わったように、

瞳の温かな光が無機質な冷たさへと変貌った。



「参りましょう、アリエ様」

差し出された手にみずからのそれを重ねる。



「えぇ」
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