第15章 Rapunzel【🦋 ⇋ 主 ✉*(激裏)】
コン、………コン。控えめな叩扉をあと、声が響く。
「ベリアン、私だよ」
声の主はルカスだった。
静かにドアをあけると、包帯と消毒用アルコールの瓶、
そしていくつかの薬品の瓶をのせたワゴンを押しながら入室してくる。
「ルカスさん、主様を頼みます」
「あぁ、任せてくれ」
アモンとハウレス、そしてベリアンが辞していく。みずからもそれに続こうとした時。
「主様を、———ハウレスくんを責めてはいけないよ」
みひらく瞳。驚いて彼をみると、いつになく真剣な瞳とかち合った。
「誰のせいでもないさ。
………だから君も、あまり自分を責めすぎないでくれ」
「……わかっています」
やっとのことでそれだけを口にする。
気遣うようにみつめる視線に、耐えきれず、部屋を出ていった。
「……………。」
一人残されたルカスは、後方をふり返る。
「ぅ………。」
眠ったままのヴァリスの眉が寄る。夢と現の狭間をさ迷っているのだろう。
「主様……。」
すり、と彼女の頬を撫でる。
手袋に包まれた、優しいてのひらの感触に、ほんの少しだけ表情が和らいだ。
「なぜ、貴女は………、」
口にしかけてはっとする。
邪念を払うように、ぼろぼろに裂かれたドレスの釦を外していった。
痛ましく刻み付けられた傷口を、しかし、ルカスは目を逸らすことなくまっすぐに見つめた。
「……フェネスくん」
部屋を立ち去る直前、彼がみせた表情が、
記憶のなかで錆と化してこびり付いていた。
「なにか、変な気を起こさないといいのだけれど」
さら……と髪を撫でる。
優しい手付きとは裏腹に、そのおもては痛みを滲ませて。
「もう、いっその事貴女を———」
掬い上げた髪に口付ける。切なげな吐息を残し、唇を離した。
軋む胸の内を散らして、ガーゼと消毒用アルコールの瓶を手に取る。
否応のない胸騒ぎを消し去りながら。