第15章 Rapunzel【🦋 ⇋ 主 ✉*(激裏)】
秋の冷える夜のことだった。
フェネスがいつものように書庫の整理をしていると、ふいにいくつもの靴の音をとらえた。
(なんだろう……?)
ばたばたと何度も廊下を行き交う足音に、不穏が胸を満たしていく。
「フェネスくん……! ルカスさんをお見かけしましたか」
通りかかったのは、いつになく蒼褪めた顔をしたベリアン。
「いえ……俺は、」
首を振ると、彼は廊下の先へと駆けていく。
廊下を漂う物々しさに、不安が一気に膨れ上がった。
(……まさか)
今日はたしか、ハウレスとエスポワールの街へいっていた筈………。
幻であるようにと、胸のなかで何度も説き伏せていると。
「なんで……っ! お前がいたのに主様が……!」
硝子の破壊音がして、ボスキの怒声が轟いた。
つかみかかり、拳を放とうとする彼を、ベリアンとボスキが止めに入る。
「ボスキくん、落ち着いてください」
「そうっすよボスキさん、主様が起きちゃうっす」
ふたりの声に、幾許か落ち着きを取り戻した彼は、舌打ちをしてゆっくりと手を下ろす。
「俺は、お前を許した訳じゃねえ。———それを忘れてくれるなよ」
それだけを告げると、部屋を出ていく。
入れ違いに部屋へと入ると、肩がぶつかった。
「……ベリアンさん」
足を踏み入れた途端目にしたのは。
「!」
苦しそうに横たわる、彼女の姿だった。
「フェネスくん……。」
ベリアンの眼がわずかに揺れ、ハウレスの表情に幾許かの冷静さが戻る。
「なにが……遭ったの」
みずからが発した声が酷く虚ろに響く。
問うようにハウレスをみると、彼はわずかに躊躇った上で、口にした。
庇ったんだ———と。
「天使の一撃から………俺を」
その瞳は自責と後悔に淀み、眠っているヴァリスをみつめている。
その瞳を見て、舌の先まで乗った言葉を呑み下した。