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訳アリ主と恋スル執事たち【あくねこ短編集】

第14章 真綿の業【All Characters(地下1階組) ✉*】


コツ、コツ……とふた組の足音が響く。

秋の優しい陽光は、彼女の横顔を柔らかく照らしていた。



(主様、)
彼女の横顔をみつめながら、初めて彼女をみつけ日を思考に載せる。



月灯りに照らされ、詩を口ずさむその姿は、さながら月の精霊のようで………。



ルカスに誘われて、戸惑うようにゆれていた瞳。

思わず割って入って、彼女の強さにふれた。



『信用できるひとなのか、それともそうでないのかは、私自身で見極めるの。

自分自身でみて、ふれて、感じたことが、私にとっての真実だよ』



(思えば、あの日から———。)
知らず唇が笑みを描く。



生きていたくなくて、死を待ちつづけていた日々。

色のない世界のなかで、彼女だけが唯ひとつの彩色(ひかり)になって。



(許されるならば、貴女と———。)



「?」

みずからをみつめる視線に気づいた彼女が、そっと見返してきた。

首を傾げた途端、さら……と艶やかな髪が流れる。



「ミヤジ……?」

瑞々しい唇が己の名を紡ぐ。それだけで、陽が差す胸の内。



「あぁ、すまないね。………なんでもないよ」

彼女に微笑みかけながら、みずからの内を蹂躙した。



(っ……私は、)
滲んだこころにはっとする。

握りしめた拳のなかで、強く爪を立てた。



(私に愛されたって迷惑でしかないさ。………そうだろう?)

みずからに説き伏せた思考に胸が軋む。

その痛みを封じて、執事部屋の扉をノックした。



「フルーレくん、主様をお連れしたよ」



「は、はいっ。いまお開けします」

静かにドアがひらかれる。

けれど顔をみせたのは、牡丹色の髪をもつ、悪魔執事たちの異彩。



「もう……ラト、なんで君が開けるのさ」

頬を膨らませて、彼の肩ごしに姿をみせるフルーレ。



「入るね」

唇に笑みをのせ、彼女が足を踏み入れる。

そして、室内を置かれたビスクドールを見止めた。
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