第9章 この先の未来に
「緋色っ。」
ノックもなしに突然部屋のドアが開けられた。杏寿郎が転がるように入ってくる。
「緋色、目が覚めたんだな。良かった。心配した。」
杏寿郎の大きな声に、緋色は咄嗟に杏寿郎の口を手で塞ぐ。
「悪かった。君が目覚めて、嬉しくてな。」
杏寿郎は緋色の手をどかすと、近くの椅子に座った。小さな声で話し出す。
「目が覚めないかもしれないと胡蝶に言われてな。君は一週間近く寝ていたんだ。」
それは初耳だ。緋色が驚いた顔をしたのがわかったのか、杏寿郎は眉を下げた。
「君が蝶屋敷に運ばれたと、意識がないと聞いて、こっちの心臓が止まるかと思った。ずいぶん血も吐いていたらしいぞ。顔も真っ白だった。」
杏寿郎は緋色の手を握った。
「俺がいなかったばかりに、君をこんな目に合わせた。」
杏寿郎の手に力が入る。杏寿郎のせいではないと、緋色は手を握り返した。そもそも自分が未熟なせいだ。杏寿郎のせいでは、決してない。杏寿郎が苦笑する。
「君は、自分のせいだ、と言いたげだな。ありがとう。」
杏寿郎が握っていない方の手で、緋色の頭を撫でる。