第3章 相手を知るということ
すると一瞬、表情が強張ったのを見てしまった。
それを見た杏寿郎の胸が痛む。
杏(俺のアプローチに戸惑っているのか。…それはそうだろう。まだ会って一日しか経っていないんだ。俺は彼女の気持ちを置いてきぼりにしてしまっていたのだな。)
りんが表情を強張らせた理由は部長を思い出したからであったが、それを知らない杏寿郎は当然そんな事に気が付けなかった。
そうしてアプローチが真っ直ぐで強めな杏寿郎はりんに『女性としてみていないのでは』と勘違いされ、奥手なりんは杏寿郎に『気持ちが追いついていないのだろう』と勘違いされてしまったのだった。
二人がそんな事になっているとは露知らず、天元、実弥、小芭内は職場の話をしていた。
杏寿郎もそれに加わるとりんは聞くことしかできなくなったが、それでも杏寿郎の世界を知るだけで楽しかった。
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天「こんばんはー。」
先頭の天元がそう言いながらガラッと引き戸を開けると、良い匂いと共に混み合った店内の人の声が届いてきた。