第2章 初めての彼氏は…、
りんは電車に乗り込むといっぱいいっぱいになってしまった。
ドアの側にも壁際へも行けなかった為に、杏寿郎が自身の体のみでりんを周りから守ったからだ。
(こ、ここまでしなくていいのに……。)
りんは杏寿郎の胸に両手を添えてくっつきながら、背中にまわされた手のひらの熱を感じていた。
しかし、この体勢を意識しているのはりんだけではない。
杏(りんさんを嫌な目付きで見た男が何人もいた。この対処は間違っていなかったはずだが…、)
そう思いながらも、りんに早くも淡い好意を持ちはじめていた杏寿郎は、耳を赤くして自身の胸の中に収まっているりんを見下ろして自然と喉をごくりと鳴らした。
杏(…少々目に毒だな。)
一方、りんは相手にそんな事を思われているとは露知らず、懸命に上司のスケジュールを頭の中で繰り返し確認しようとしていた。
しかし、今週出張がある事くらいしか思い出せない。
そして生産性のない考えを繰り返しているうちに乗客が減っていった。
杏寿郎はそれを確認すると腕の力を緩めてりんをそっと解放した。