第10章 使命感
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男「あ、水瀬さんだ…。」
女「水瀬さんと言えば昨日、」
女「私直接見ました…!」
りんが他部署へ資料を配りに営業部を出ると、そこかしこから小さな声が上がった。
(杏寿郎さんの噂、広まってるみたい…。少し恥ずかしいけど、これで後ろ首の痣の相手は誰なんだって探る人はいなくなる。部長との噂も消える…よね。)
りんは胸に抱いた資料を抱き直すと、澄まし顔の口角を少し上げて歩いた。
(部長の反応は予想外だったけど、体の心配をさせなければ良い話だし…!)
そう思うと、『余計なことは杏寿郎さんに黙っておこう』と決めたのだった。
———しかし、藤川は看過しがたい行動を起こした。
それに気が付いたのはりんが仕事を終え、自宅の最寄り駅のホームに着いてからだった。
「………え…?」
名を呼ばれて振り返ったりんは、プライベートの空間に居るはずのない藤川を見て鞄を落としそうになった。