第9章 牽制
杏「……大丈夫だろう!」
杏寿郎はそんなりんを見ておかしそうに笑った。
「そうかな…みんな杏寿郎さんのこと見てましたし…。」
杏「それを言うなら君の表情も問題だな。上司との間に妙な噂が立つことは防げただろうが、君の本当の笑顔を見てしまった男もいただろう。」
杏寿郎は『失策だったろうか。』と眉を寄せる。
りんはそれを見て少し慌てた。
「あの…、最近、同僚に打ち明けたんです。恋人ができたのは実は初めてだって。なので性格についての誤解は元々解けてきていたかなと…。」
それを聞いた杏寿郎は眉を寄せたまま顔を上げた。
「え、」
杏「男にも打ち明けたのか。」
「い、いえ…。」
それを聞いた杏寿郎は静かに箸を置いた。
(…どうしたんだろう……。)
りんは重たい空気に思わず喉をこくりと鳴らした。
杏寿郎はそんなりんを真っ直ぐ見据える。
杏「男には今まで通りに接してくれ。素の君の雰囲気は少し危うい。君の上司が良い例だ。」
「……分かりました。」
りんは納得した顔になると素直に頷いた。
「同僚にも合わせてくれるよう話してみます。」
りんのきちんとした返事を聞いた杏寿郎は厳しい表情を崩し、優しく微笑んだ。
杏「ああ。信頼しているぞ。」