第9章 牽制
藤(………………………………。)
杏寿郎達を見ている人だかりの中には問題の藤川もいた。
杏寿郎は嫉妬が混じった嫌な視線を感じると、りんに気付かれないように後ろを軽く振り返る。
すると藤川は杏寿郎の視線に怯まず強い独占欲が滲む瞳で睨み返してきた。
杏「………………………………。」
杏(…あの目…恐らくあの男が藤川さんだな。)
そして二人はりんの知らないところで互いに『譲るつもりはない。』という意思を示し合ったのであった。
藤(あれが…水瀬さんの…、)
藤川は杏寿郎を睨みながら品定めするように目を細めた。
しかし、パッと見ただけでは粗は見付からなかった。
藤(…いや、だが、これでハッキリした。彼は独占欲の塊だ。水瀬さんもこのまま付き合っていたら参ってしまうだろう。)
そう思いながら隣のりんを見る。
りんは嬉しそうに笑っていたのだが、残念な事に藤川からはその表情が見えなかった。
藤(きっと今も困っているに違いない。俺なら…困らせたりはしないのに…。)
藤川はそう思うと拳をきつく握り、パッと視線を外した。
杏(………………………。)
「…杏寿郎さん?」
杏寿郎が何かに気を取られていることに気が付いたりんは、首を傾げて杏寿郎を見上げた。
すると杏寿郎はすぐに柔らかい笑顔を取り戻してりんに視線を移す。
杏「そういえば夏の予定を詳しく決めていなかったな!週末に計画を立てよう!」
「わあ!」
りんは流された事に気付かず輝く笑顔を浮かべた。