第9章 牽制
杏(どれだけ強く付けたらこんなに残るんだ。)
「杏寿郎さん、三温糖とって頂けますか?」
杏「……ああ。」
台所で夕飯を作るりんは杏寿郎がただ料理を作るさまを観察しているのだろうと思っていた。
しかし、杏寿郎が台所へ来たのはりんが髪を一括りにするからだった。
「杏寿郎さん…、」
りんは渡されたグラニュー糖を見て少し微笑むと、そっとそれを戸棚に戻して三温糖を取り出した。
(お砂糖は一つだと思っているのかな…可愛い…。)
そんな事を思っているりんの後ろ首にはもう杏寿郎の歯型がない。
かと言って再び歯型を付けるのも憚られる。
杏(あの時は咄嗟に付けてしまったが、髪を上げれば簡単に見える位置に噛み付けばりんさんが困るだろう。)
そう分かってはいるが、独占欲が刺激されて仕方がなかった。
杏(……何を自分勝手な事で悩んでいる。消えるまで我慢する他ないだろう。)
杏寿郎はそう思うと耐える事に決めたのだった。
しかし——、華は一向に消える気配を見せなかった。