第9章 牽制
藤(水瀬さんは痣にも歯型にも気が付いていないのか。)
そう思い至ると、『何があったのかを水瀬さんから確認できていない恋人は焦りながら歯型を付けたのではないか。』と少し意地の悪いことを思った。
藤(もしかしたら男の気持ちの方が大きいのかもしれない。足腰が立たなくなるほど無理な抱き方もしていたようだし、彼女が愛想を尽かすのはきっと時間の問題だろう。)
見つめる先のりんはテキパキと藤川の為に資料を纏めている。
藤(本当の水瀬さんは押しに弱そうだった。きっとそこに付け込まれてしまったんだろう。…それなら俺が何とかしてあげたい。)
藤川はそう使命感にも近い希望を持ってしまったのだった。
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杏「……………………。」
りんが男に襲われてから一週間が経った。
杏寿郎はそれなのに消えない首後ろの華を見て眉を顰めていた。