第9章 牽制
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杏「……むぅ。」
帰宅してソファに座っていた杏寿郎は腕を組みながら低く唸った。
りんが杏寿郎の家に帰ってきそうになかったからだ。
杏(確かにまだ同棲はしていないが…、週末ずっと一緒にいたからか物足りなく感じてしまう。)
そう思うと立ち上がり、合い鍵を取りに行った。
しかし『恋愛は引くことも大切』というありふれたフレーズを思い出すと足を止める。
杏(彼女が冷めるとは思えないが…それでも今日は止めた方が良いのだろうか。)
そう思いながら冷めたりんを想像してみる。
頭の中のりんは杏寿郎の方をちらりと見てからそっぽを向いた。
杏(……愛らしいな。)
最初はそんな風に思ってしまった杏寿郎であったが、りんがそのまま藤川と思しき男の元へ駆けるとざわっと毛を逆立てる。
杏(このまま押し続けた結果、もし藤川さんの方が付き合いやすいと思われてしまったら…、)
そう思うと口をグッと結び、鍵を鞄にしまい直してしまったのだった。