第9章 牽制
藤「いや…ごめん。これは間違いなくセクハラだ。悪かった。」
「………いえ…。」
りんがそう気まずそうに言って再び立ち上がろうとすると、藤川は胸を焼く嫉妬に目を細めた。
藤(どんな男なんだ…。俺との噂が無くなったのはその男のせいなのか。それともやっぱり酒の席で従兄弟と何かあったのか…。)
そう思うと髪を上げているりんの後ろ首に視線が移る。
無防備なそこはまだ白いままだ。
藤「……………………………………。」
藤(……駄目だ…仕事中に私情を挟んだら…、)
そう自身を制するも腕が伸びてしまう。
そして、とうとうそこをグッと強く抓った。
「い、痛ッ」
りんが驚いて藤川を見ると、藤川はパッと手を離した。
藤「ごめん…妙な虫が止まっていたんだ。」
「…………そう、ですか…。」
そう言って藤川の手元に視線を移すと、藤川はハンカチを取り出して手を隠してしまった。
そんな藤川はりんの後ろ首に付いた赤い痣を見て心が満たされたのを感じた。
それの見た目が赤い華と大差なかったからだ。
藤(これを見たらその男はどう思うだろう。嫉妬…するのだろうか…。)
藤川はまだ見ぬりんの男相手にそんな事を思い、そして、あろう事か牽制をしてしまったのだった。