第9章 牽制
藤「………………………………。」
それを同じく昼休憩から帰ってきた藤川が見つける。
そして、初めて見た本当の笑顔に目が釘付けになってしまった。
藤(…………欲しい。)
無意識にそう心の中で呟き、ハッとする。
そして口を手で覆い眉を顰めた。
藤(彼女は俺と別れたという噂をどうとも思っていなかった。慎重に距離を縮めないと…。)
そう思っているところにりんがやって来る。
仕事の顔に戻ったりんは隙のない顔をしていた。
藤「水瀬さん、臨時会議を開くことになった。急ぎ準備をしておいて欲しい。資料のメモはこれ。頼むね。」
「畏まりました。」
そう返事をしたその時、ぽんと肩を叩かれたりんは腰を抜かしそうになって慌てて足に力を込めた。
(あ、危なかった…何とか踏みとどまれた…。)
そんな事を思いながら杏寿郎の顔を思い浮かべる。
りんはその爽やかさを少し恨めしく思った。
だが、やはり怒るまでの気持ちにはなれなかったのだった。